板書は、これまで述べたような課題はあれども、話し合いを円滑にし生産性をあげる心強い可視化のスキルです。デザイン系のアウトプットを出す仕事には特に役立つでしょう。
「可視化する」というと「情報や意思決定プロセスの透明性」と近似した良いことのように思えるかもしれませんが、「可視化すべきか? できるからといってやって良いのか?」という観点や、「可視化した後どのようにその記録はどのくらいの期間保存するのか? 利活用して良いのか? 適切な同意の取り方は?」といった論点も大事になるでしょう。可視化の技能は、みる技能やきく技能と密接に関係しています。かき手となる人間が感じられないもの、きけないものはかくことができません。そして場には発話以外のことが豊かに起こっています。言葉に表されない非言語のメッセ―ジもありますし、参加者ひとりひとりの心の中で起きていることも違います。グループならではの力学も働きます。場に起きていることの全体を人間ならではの知覚と身体で感じながら行う板書は、話し合いの幅やクオリティを大きく高めます。
一つの話し合いに生まれる成果が向上することは、組織全体からみれば小さな収穫かもしれません。ですが密度の高い話し合いを繰り返して収穫を積み重ねれば、チームメンバーひとりひとりのモチベーションが高まります。ひとつのチームが変われば、そのチームに関わる同じオフィスのメンバーや社内外の関係者も影響を受けます。そうして社内にも社会にもイノベーションの風が徐々に吹いていくのです。
会議は、ファシリテーションが場にきちんと作用することで参加者同士が互いをわかりあい連携力を高める可能性を秘める組織内の重要なレバレッジポイントです。
ただし、板書の技能は、様々な利害関係に対処するためのファシリテーションに必須ではありません。組織の上層にいくほど、書くに書けない内容や事情が増えざるを得ません。活躍の場が組織やプロジェクトの上流へシフトしていくにつれ、板書以外の場の技法や経営に関する知識、人間観や倫理、一般教養の重要性が増していくことでしょう。
板書の功罪を了解し、それでも目の前の会議、あなたのチーム、その外に連なる組織にとって有用だと感じた瞬間があれば、そのとき、ぜひ勇気をもってイノベーションを起こす最初の一歩として板書役をかって出てください。やるからには成功させたい方、場の設計技法も含めてきちんとファシリテーションを導入したい方、自分なりにやってみたが壁にぶつかっているという方、どうぞ私どもにご相談ください。
記:ワークショップ設計所 後藤
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