場の発散技法: 『ダイアログ』

ファシリテーターの思想
場の技法シリーズの14回目をお送りいたします。
今回は「発散」の技法の1つ、『ダイアログ』について記しました。

ダイアログとは直訳すれば「対話」であるが、なかなかその意味にチームの共通理解をつくることが難しい。ダイアログの意味をつかめていないメンバーに対して「ダイアログをしてください」あるいは「対話をしてください」とただ発話しても、ダイアログはなかなか起こらない。
ダイアログは、自分の考えや気持ちを相手に隠さずに開くと同時に、自身のイデオロギーや立場に固執することなく相手の考えの前提や背景を共に探求しながら、互いの理解を深め合うコミュニケーション形態を指す。もともとダイアログは、ダイアとロゴスという2つのギリシャ語の語根から派生した言葉である。ダイアは「……を通して」「互いに」を、ロゴスは「言葉」をそれぞれ意味する。つまりダイアログとは「言葉の意味が、人と人の間に流れ通じ合うこと」を表すわけだ1。そしてこのダイアログを場の全員で継続することを通して、その空間の“集合的な発見”、つまりアイディアの創発現象2が起きる環境を作ることができる。(と同時に、維持することもできる。)

なお便宜上、このダイアログは場の発散技法に分類したが、十分なダイアログは発散を助けると同時に、自ずから場が収束に至る。ダイアログのファシリテーターにはそういった収束の兆しを逃さず掴む観察力と介入力の両方が求められる。基本的なワークショップ設計ができる方は、次のステップとしてチャンレジしてみるとよいだろう。

技法は、単体ではどんな場でも機能しない。状況を、「事前」と「今、ここ」の2回ある機会を活用することで適切に見極めて複数の技法を重ねる必要がある。
訓練を受けたファシリテーターを複数存在させることも有効だし、さらには参加者を巻き込んで技法選択を検討できるとなお良い。
各技法は、前後の技法の接着面を「場の設計技法」によって明文化することで初めて機能する。単体の技法のみの安易な導入は、場の失敗につながる。組織内の信頼関係を毀損しかねないばかりか、下手をすると一部の仲間に心の傷を負わせるリスクが発生してしまう。十分な善意と設計を熟慮してその場に臨むことがファシリテーターの義務であることを踏まえて、各種技法を活用して欲しい。

記:ワークショップ設計所 小寺
同じ著者の読みもの

付録

  1. 由来の通りダイアログとは二人の人間が一対一で話すことを指す。例えばソクラテスとプラトンが繰り広げたコミュニケーション(ソクラテス的対話: Socratic Dialogue)はダイアログである。だから日本語訳である「対話」は、二つがそろって一つとするという意味をもつ漢字の“対(つい)”が充てられる。さて小集団や組織のコミュニケーションは、一対一が話しあい聴きあい意味が通じあう行為の積み重ねではあるが、社会的相互作用や集団内の力学(グループダイナミクス: Group Dynamics)が作用する。そのため3人以上の場では、一対一のコミュニケーション行為を本来指すダイアログ(対話)の意味を広げて使用することになる。
  2. 創発(emergence):創発とは2つの意味がある。1つはシステム論における用法である。例えば原子システムや生命システムや社会システムなどそれぞれのレイヤーにおける特有の性質を「創発的性質」と呼ぶ。もう1つは、“大域的な性質”と“局所的な相互作用”とが互いに影響を及ぼし合うような仕組みを指す。人工生命(Artificial Life)研究の分野では、このような上位要素と下位要素の動的安定をラングトン[Christopher Langton, 1949年~]は「コレクショニズム[collectionism]」と呼んだ。本文中での創発は後者の意味で用いていることを付記しておく。