職場での板書は、ファシリテーター自身を助け、メンバー同士をしっかり向き合わせる

ファシリテーターの思想
前回の読みものからの続きです。)

ファシリテーター自身が集中できる

ファシリテーターは、参加者全員にとって有意義な会議ができるように、常に色んなことを感じたり考えたりしています。発言、表情、姿勢、話されている内容、事前に想像した展開とのズレ、ズレを修正するかこのまま進めるか、参加者にいつ、どんな台詞で質問するか…話し合いは始まってみなければわからない要素が多々あります。そもそも集まって話したり体験したりしてみないとできないことや決められないことのために開催するわけですから、事前に全て予測はできません。

板書役も人間ですから、個人のパーソナリティには差があります。私は特性5因子でいう神経質傾向と経験への開放性が明らかに高いと自認しています1。つまり、不安になりやすい、発想がわきやすく連想が起こりやすいという2つの特性をあわせもっています。この傾向は、様々な状況の予測や失敗に対する熱心な準備としては有利に働きますが、いざファシリテーター役を担うときには、可能性の低い選択肢や失敗まで頭に浮かんでくるという困った状況もつくりだします。板書をすることで、「いま何が発言されたか」と、「参加者はいまどんな前提情報をもとに参加しているか」の情報を固定できます。妥当な範囲での選択肢検討に集中したり、参加者に的確に働きかけたりすることに役立ちます。

参加者の意見をしっかり取り上げられる

丁寧に意見をすくいあげ、形にして書き留めるというスタイルは、メンバーの自主的な発言をひきだす効果があります。自分なりに考えたことを家族でもない誰か、まして自分より先輩だったり役職者である人が真剣に聞いてくれ、記録してくれるというのは若いメンバーにとって励みになります。
人は、言いたいことをいつも瞬時に言語化できるわけではありません。個々人の言語化の上手い下手、言語表現の引き出しの数は異なります。自己責任で全員が理解でき、かつ会議に資する発言しかしてはいけない会議しか許されない組織は、息が詰まります。日頃の職場の会議では、言うべきと思ったこと、それが解決案でなく違和感だとしても、まずは口に出してみても不利や脅威として扱われない環境をつくりましょう。発言が多くて板書しきれない苦労をするほうが、発言が少なくて板書できない苦労をするよりかは幾分生産的な話し合いになるはずです。何でもかんでも口に出していいということではありませんが、考え詰められない現状があるならまずは口に出して皆で助け合うことから始めて欲しいと思います。

記:ワークショップ設計所 後藤
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付録

  1. 特性5因子とは科学的につきとめられた脳の構造の個人差を表す、誰もがもつ5つの因子です。神経質傾向と経験への開放性のほか、外向性、誠実性、調和性の5つの次元がありビッグファイブとも呼ばれています。これら特性5因子は、パーソナリティ心理学における研究の蓄積が、PET(陽電子放射断層撮影法)やfMRI(機能的磁気共鳴)などの脳画像診断の発展や進化心理学等の知見とあわさった結果「人間のパーソナリティを論じるための枠組みとして、これまで表れたもののうち、最も総合的で、最も信頼性をもち、また最も役に立つものと思われる(Daniel Nettle P28,2007=2009)」とされています。