場の導入技法: 『チェックイン』

ファシリテーターの思想
場の技法シリーズの6回目をお送りいたします。
今回は「導入」の技法の1つ、『チェックイン』について記しました。

その場の全員が、これからの話し合い(ワークショップ、会議、シンポジウムなど)に「参加」することを認識し合う儀式を、しばしば『チェックイン』と呼ぶことがある。
『チェックイン』では、まず、一人が何らかを話す。話をした者が、他のメンバーに自分の話を聞いてもらえたと思うことで、その話者にとって気がかりであること1が一旦保留され、これからこのチームメンバーの一員として共につくる場へ参画することを期待できる。流行り言葉でいえば、心理的安全性をほんの少し高めることにチェックインは有用なのである。

具体的には、「いま、感じていることをひと言ずつどうぞ。」という風にファシリテーターがメンバーに向けて働きかける。他には、「いま、気になっていることを——」「今日の期待を——」「あなたはなぜここにいるのかを——」などから始まることが定番で、いずれも「——ひと言ずつどうぞ。」と続く。働きかけ方として「ひと言ずつどうぞ。」と促す以外にも、「——を率直にお話ください。」「——を手元の紙に絵で表現してください。」「——をチェックインしてください2。」とバリエーションはさまざまある。(話す内容と働きかけ方にそれぞれ三例ずつ挙げたので、ここでは『チェックイン』のパターンを九つ、既に示したことになる。なお実際のチェックインでは、これら無数の促しパターンから通常1つだけを選んで実施する。特別な事情がない限り、ファシリテーターがメンバーに向けて二回、三回とチェックインを促すことは無い。)

この技法『チェックイン』では、チェックインをしている者以外のメンバー——多くは他のメンバーとファシリテーター自身が当てはまるであろう——は、そのチェックイン内容に耳を傾けることになる。チェックイン中は、その聞き手やファシリテーターは原則として〝頷くのみ〟くらいが丁度よい。つまり、(例えば)「いま、感じていることをひと言ずつどうぞ。」と呼びかけられてある人が何かを話している最中や話し終わったあとは、その話を聞いた周囲のメンバーはなるべく相槌を打たず表情もつくらずただ〝頷くのみ〟が望ましいということだ。(思わず笑ってしまったり声があがったりすることをファシリテーターが制止する必要はない。)ときどき、(多くは良かれという善意から)チェックイン中に質問を交わし合ったり、話し終わった後に大仰な拍手を強制したり、サムズアップして大声で「Yeah!」と盛り上げさせるなどの指示も取り入れられるがそれは例外と思っておいたほうがよい。(例外的な指示を取り入れたい場合は何らかの《タネ》3があるはずであるから、入念な事前設計が必要である。)

チェックインという言葉は、空港やホテルなどにおいて到着を知らせることを指す。その一方で、「“check-in” on his/her emotional state. 」は、「彼/彼女の気持ちのあり様を〝確認する〟」という意味にもなる。一部の英英辞書では、check-inを『to report one’s presence or arrival』4、つまり、その人の到着もしくは存在を報告することを意味する5

意訳すれば、チェックインは存在確認なのだ。その人がただそこに座っているだけで皆がその人の存在を受け容れていると、その場の全員がお互いに感じあっている確信がファシリテーターにあるのであれば、わざわざ何かをひと言ずつ発話させる意味はない。チェックインの時間は不要なのだ。逆に、互いに見知った間柄で定期的に話し合う関係であったとしても、議題がいつもと違い戸惑っていることもあるだろうし、もっと言えば、一人ひとりの心のあり様は毎回異ってその場の社会的状況(集団プロセス)を形成している。だから簡易的にでも場の導入にあたってチェックインは必要であることが多い6

この読みものの冒頭に、チェックインの聞き手は〝頷くのみ〟くらいがちょうどよいと書いた。チェックインはここまでみてきたように、なんでもよいから何かをひと言ずつ話しそれを聞けばよいというわけではない。互いの存在を知らせ合うのがチェックインであり、それゆえに場の導入技法として機能する。ともすれば相槌や問いかけや笑いが存在確認ではなく存在否定と取られる7かまだわからない時期、それはおそらく集って間もない話し合いの導入期においては、チェックインしようとする者に耳と身体を真摯に傾けようとするために、〝頷くのみ〟くらいがニュートラルな態度の基本であり、その場のファシリテーターの指示として丁度よいのである。

チェックインが難しかったり表層的にしかうまく機能しない理由は、「チェックイン」という言葉のもつ上記のようなニュアンスを、その場の全員が肌感覚として理解している場面が少ないことにある。
「チェックイン」という言葉をホテルや空港でしか聞いたことのない参加者がその場に1人でもいるのであれば、ファシリテーターは「チェックイン」という言葉を使用したりホワイトボード(や模造紙)に明示したりすることは望ましくない。「チェックイン」という言葉そのものが、彼/彼女の場への導入を妨げる可能性があるからである。また、(ここで記したような)チェックインの意味や意義をファシリテーターが事細かに説明8することも、特に場の導入時においては現実的でない。だから、ファシリテーターは「チェックイン」という言葉を使わずにチェックインの効果(互いの存在確認)を促せる導入ができるようになっておくとよい。

訓練を受けたファシリテーターを複数存在させることも有効だし、さらには参加者を巻き込んで技法選択を検討できるとなお良い。
各技法は、前後の技法の接着面を「場の設計技法」によって明文化することで初めて機能する。単体の技法のみの安易な導入は、場の失敗につながる。組織内の信頼関係を毀損しかねないばかりか、下手をすると一部の仲間に心の傷を負わせるリスクが発生してしまう。十分な善意と設計を熟慮してその場に臨むことがファシリテーターの義務であることを踏まえて、各種技法を活用して欲しい。

記:ワークショップ設計所 小寺
同じ著者の読みもの

付録

  1. その気がかりは、時に話者の意識にのぼっていない、つまり無意識であることもある。
  2. チェックインという言葉がその場の共通用語でない場合、ファシリテーターからの補足説明が冗長になったり、場へ参加するハードルをいたずらに高めるリスクをつくるため注意が必要だ。詳細は後述する。
  3. 《タネ》について詳しくは、読みもの「場の設計技法: 《タネ》」を参照されたい。
  4. Webster’s Dictionaryより
  5. presenceは、直訳すれば存在だが、その他に出席、面前、参列、立ち会い、(目に見えない)霊気や影響力、臨場感などの意味がある。
  6. このことを応用すれば、チェックインは場の発散技法としても有効になる。このことは読みもの「場の発散技法: 『心のクリアリング』」で詳述した。
  7. 心のこもらない(と誰かに見えた)相槌が他の誰かを不快にさせることもあるし、愛想笑いの積み重なりが集団を官僚的にすることは頻繁にある。
  8. 〝説明〟にとどまらずたいていは蘊蓄の〝披露〟となるだろう。それはファシリテーターとメンバーの対等な関係づくりを妨げかねない。