アーキテクチャ(あるいは環境管理型権力)によるファシリテーションの検討

場とテクノロジー

先日の記事では、ナッジ理論を用いたファシリテーションを解説しましたが、今回はナッジと似た概念「アーキテクチャ」によるファシリテーションについて考えます。

アメリカの法学者ローレンス・レッシグ1は人の言動に影響をするものに、Law(法)、Norm(規範)、Market(市場)に続く4つ目の要素としてArchitecture(アーキテクチャ)を挙げ、各項が相互に関連していることを指摘しました。

飲酒運転で例えてみましょう。
飲酒運転を禁止するルールをつくることがLaw(法)、悲惨な事故を起こすからやめましょうと道徳や倫理に訴えかけることはNorm(規範)、罰金を設定し損をしないようにはたらきかけることはMarket(市場)にそれぞれ相当します。
Law(法)、Norm(規範)、Market(市場)のいずれも「飲酒運転をさせない」よう人の言動に、大小あれ影響をもたらすことがおわかりかと思います。

4番目の要素であるArchitecture(アーキテクチャ)で人に影響しようとする方法にはどのようなものがあるでしょうか。
例えば運転席でアルコールの呼気を検知したらエンジンがかからない車が考えられます。飲酒をしていたら、物理的に運転そのものが不可能なように予め自動車をデザインしておくわけです。

つまりアーキテクチャとは次のように定義できます。

アーキテクチャ
人間の行動を、環境設計によって物理的・技術的にコントロールする手段。

アーキテクチャはそもそも、建築物そのものや建築様式を意味する言葉です。

アーキテクチャ
建築物。建築様式。建築学。構造。構成。

新村出編(2008)『広辞苑』第六版, 岩波書店.

例えば、家があり玄関が1つあったとしましょう。
その家の書斎に行きたい人は、玄関のドアを開け、書斎に続く廊下を通らなければならず、他に書斎へ到るルートはありません。家にそのような導線が設計されているからです。つまりアーキテクチャ(建築物)によって、人の行動を物理的にコントロールしているわけです。この建築物の意味を拡大解釈し、社会全体やインターネット上で、人の行動に影響を与える4番目の要素としてArchitecture(アーキテクチャ)という言葉が挙げられました。

アーキテクチャは、ときに「環境管理型権力」とも訳されます。
飲酒運転の例でいえば、アルコールを呼気に含むときエンジンがかからない自動車をメーカーが供給するならば、これはメーカーがユーザーに“飲酒運転をさせない”という規制を環境管理によって行っています。家の例でいえば、廊下を通らねば書斎へ入れないよう、法や規範、市場の効果を用いずとも廊下という環境をつくることで、施主は訪問者の行動をコントロールしているといえます。
自動車メーカーや施主といったアーキテクト(建築家)の物理的・技術的な規制がアーキテクチャの権力(power)そのものと捉えることができるでしょう。

ファシリテーターがつくるアーキテクチャ

ファシリテーターは、どのようにアーキテクチャをつくり環境管理型権力を行使しているでしょうか。

例えばメンバー間で考えを周囲と共有してもらうため、白紙と太めのカラーペンを使ってもらう場面があったとしましょう。遠くからでも文字を視認しやすいため参加者には青や茶といった濃い色のペンをなるべく使って欲しい。ところがファシリテーターが濃い色のペンを使ってほしい旨をメンバーに伝え忘れたため、ある参加者が黄や橙を使ってしまい、字がとても見づらいためにメンバー間の共有が起こりづらくなってしまいました。

こういう状況を回避するためにどのような対応が考えられるでしょうか。

指示命令による権力行使

指示命令によって権力を行使する場合、

ファシリテーター
ファシリテーター

黄色や橙色のペンは使わないでください。

と参加者に指示することになります。

また、もし黄色や橙色のペンを使っているメンバーを見つけた場合、

ファシリテーター
ファシリテーター

その色は他の人に読みづらいので、この青色で書き直してもらえませんか。

といったお願いも考えられます。(もちろんなんらかの理由(今もし注意をすれば参加者が萎縮すると思われるため、など)で、書き直しを要求しない、つまり介入しないことも考えられます。)

ナッジの利用

先日の記事で紹介したナッジを用いるとどうなるでしょうか。

濃い色の字で、今日のお品書きやお願いごとを書き、黄や橙の色を下線や強調などの装飾として使った掲示物を予めつくり部屋の壁に貼っておくことが考えられます。

また、「文字用」のシールを貼ったペン入れに濃い色のペンを、「装飾用」のシールを貼ったペン入れには薄い色のペンを入れてテーブルに置いておくこともよいでしょう。

周囲の掲示物やシールをメンバーの視界に入れ、濃い色を使ってもらえるよう期待するわけです。良い選択(ここでは濃い色を選択すること)ができるよう、ファシリテーターが参加者をナッジしています。

アーキテクチャの設計

アーキテクチャの設計(つまり環境管理型権力の行使)は簡単です。
黄や橙といった使ってほしくない色のペンを、予めテーブルの上から取り除いておけばよいのです。薄く読みづらい色のペンを物理的に使えない環境をつくっておけば、本来の目的であった「メンバー間の考えの共有」をファシリテーターは、指示命令や指導をせずとも、達成してしまうわけです。
その是非は別として。

オンラインファシリテーションとアーキテクチャ

現実世界のアーキテクチャは、ナッジと意味がかなり近い。人々の行動を制限するため物理的に壁をいくらつくっても、「その壁から先に行ってはいけない」というナッジを示すに留まります。その気になれば、私たちはどんな壁も壊せます。呼気にアルコールが含まれてもエンジンがかかるように私たちは車を改造できます。家を重機で壊して書斎に侵入できますし、黄色のペンを近くのコンビニで買ってくるなり自分で持ち歩くなりすれば、それぞれ受け手は権力者のつくったアーキテクチャに従わずに済みます。壁を壊すのか壊さないのか、広い意味で自由に選択ができるわけですから、現実世界のアーキテクチャは広義のナッジです。

一方で、ソフトウェア上のアーキテクチャは強力です。
ユーザーは画面上の特定の場所にしか文字や図を書けません。プログラマー側が想定するボタンをタップしない限り、ユーザーは次の画面へ遷移もできません。このような制限がソフトウェアそのものです。ユーザー側でコードは通常見られませんし、改造も不可能です。冒頭で名前を挙げたレッシグも、ソフトウェア上におけるアーキテクチャの強力さを指摘しています。だから、アーキテクチャは『CODE』というタイトルの本で紹介されました。

[……]サイバー空間のいろいろな場所は、いろいろな「性質」を持っている。この性質は所与ではなく、人がつくるものだ。それは(少なくとも部分的には)このちがった空間をつくりあげるアーキテクチャで決まる。このアーキテクチャもまた所与のものではない。このコードのアーキテクチャは、サイバー空間のアーキテクトたち——コード作者によって決められる。

レッシグ(2001: 148)

オンラインホワイトボード上で、ファシリテーター側(ファシリテーターをはじめ機器管理者や事務局などの主催者側)が黄色ペンを誰も使えないよう制限してしまえば、何らかの事情で黄色ペンを使いたい参加者は完璧に封殺されます。そこにナッジは存在せず、参加者は選択できる自由を奪われます。

アーキテクチャとナッジの間に見えるファシリテーターの中立性

アーキテクチャを環境管理型権力として設置し、参加者の選択自由性をどこまで拒絶するか。その上で、参加者がどちらも選べる自由を残したまま「こちらの方がいいよ」とナッジするか。アーキテクチャ0%, ナッジ100%という設計はあり得ませんし、またその逆もできません。ファシリテーターがどう場を設計しても、アーキテクチャは出来上がるし、ナッジもつくっています。先に触れたように、オンラインではアーキテクチャ寄りに場ができてしまう傾向があります。

その場に応じて、アーキテクチャとナッジをどのくらいの割合でブレンドするか?

ここ次第でファシリテーターが中立として振る舞えるかが決まってくるのです。

参考文献
レッシグ, ローレンス(2001)『CODE――インターネットの合法・違法・プライバシー』(山形浩生・柏木亮二 訳)翔泳社.

記:ワークショップ設計所 小寺
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付録

  1. ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig, 1961-):専門は憲法学とサイバー法。著作物の適切な再利用促進を目指す国際的プロジェクト「クリエイティブ・コモンズ」ライセンスの創設者でもある。