今回は「聴講」の技法の1つ、『質問づくり』について記しました。
パネルディスカッションや鼎談/対談、ゲストからの講話、グループ発表などが長時間に及ぶ場合でも、この技法『質問づくり』を用いることで聴衆を場に参加しやすくする。(通俗的に表現すれば、参加者を寝かせづらくする。)
たとえば基調講演の際にこの技法『質問づくり』を導入するとしたら、ファシリテーターは以下のように指示するとよい。「これから始まる基調講演のあと、質疑応答の時間を設けます。ですので、基調講演が終わるまでに手元のメモ用紙に質問を3つ以上考えてメモしておいてください。」と、こういう具合だ1。質問を考えねばならない、という緩やかな環境管理型権力2の行使である。もし、質問文がなかなか浮かばないであろう参加者が多いと予想されるのであれば、「質問3つがどうしても思いつかない方も、少なくとも1つは考えてみてくださいね。」と付け加えるとよいだろう。無論、先の指示内容を採用する場合は、講演後に質疑応答の時間を十二分に確保しておくことが必要である。(参加者がせっかく考えた質問が、日の目を見なくなるような進行は避けねばならない。)
講演(あるいは、パネルディスカッション、鼎談/対談、報告者のプレゼンテーション)の後の進め方には、いくつかのバリエーションがある。最も一般的でシンプルなものは、質問がメモされた用紙を回収し、ファシリテーターもしくは講演者が質問をいくつか選んで応える進め方である。他には、質問を参加者各自の携帯端末からオンラインにアップロードしてもらい、どの質問に興味を惹かれるかを、全員で投票し合う進め方。さらにこんな進め方もある。「手元に挙がっている3つ以上の質問から、最もこの場に貢献するであろう質問を1つ選んでください3。(30秒ほど待つ)どなたかよい質問はありますか?」と場に問いかける。事前に何も指示せず、講演後唐突に質問を募るよりも、質疑と応答が活発に行われることが期待できる4。
講演のような、一見、一方通行的に話が続く場であっても(そしてそれが数千人規模のイベントであったとしても)参加している実感を高める工夫の余地はどこまでも存在する。参加者も発表者(ゲスト、パネリスト、鼎談者/対談者、報告者)もお客様であるという意識を忘れず、ファシリテーターは各立場の方々が気持ちよくその空間に参加でき、集った目的達成に専念できる〝もてなし〟を設計せねばならない。
技法は、単体ではどんな場でも機能しない。状況を、「事前」と「今、ここ」の2回ある機会を活用することで適切に見極めて複数の技法を重ねる必要がある。
訓練を受けたファシリテーターを複数存在させることも有効だし、さらには参加者を巻き込んで技法選択を検討できるとなお良い。
各技法は、前後の技法の接着面を「場の設計技法」によって明文化することで初めて機能する。単体の技法のみの安易な導入は、場の失敗につながる。組織内の信頼関係を毀損しかねないばかりか、下手をすると一部の仲間に心の傷を負わせるリスクが発生してしまう。十分な善意と設計を熟慮してその場に臨むことがファシリテーターの義務であることを踏まえて、各種技法を活用して欲しい。
記:ワークショップ設計所 小寺
同じ著者の読みもの
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付録
- シーンが会議であれば、たとえば「基調講演」を「報告者のプレゼンテーション」等に置き替えると同様の指示が成り立つ。
- 環境管理型権力とファシリテーションの関係については、読みもの「アーキテクチャ(あるいは環境管理型権力)によるファシリテーションの検討」と、読みもの「環境管理型権力の功罪とファシリテーションへの応用」で論じているので、参考にしてほしい。
- その他、「自分の周りのメンバーもきっと聞きたいであろう質問を1つ選んでください。」「発表者が問われて嬉しいであろう質問を1つ選んでください。」などもよいかもしれない。どのような指示内容が相応しいかは、その場の《ねらい》と《タネ》によって決まる。《ねらい》に関しては読みもの「場の設計技法: 《ねらい》」を、《タネ》にかんしては読みもの「場の設計技法: 《タネ》」をそれぞれ参考にするとよい。
- 逆に、何も指示せずとも活発な質疑応答が起こるであろうとファシリテーターが想定できるのであれば、この技法『質問づくり』は不要である。