場の収束技法: 『グルーピング』

ファシリテーターの思想
場の技法シリーズの16回目をお送りいたします。
今回は「収束」の技法の1つ、『グルーピング』について記しました。

出された情報同士を似た意味で集めることをグルーピング(日本語になおせば“組み分け”である)という。
例えば、社員旅行の行き先をたくさん出し合ったとしよう。沖縄、北海道といった定番から、京都や熱海などの国内観光地、上海やタイ、グアムなどの海外、果てはフィンランド、ウユニ湖、北極などなかなかの遠方も挙げられたとする。多様に出されたアイディアを1つに決めねばならないとき、もしあなたがファシリテーターであればどのように進めるだろうか。
アイディアをグルーピングする場合に大切なことはそのグループにどんな名前を名付けるかということだ。よく思いつくグルーピングは、海外/国内だとか、温かいところ/寒いところ、アジア圏/英語圏/その他などだろうか。ここでのポイントは収束(つまり決定)のためにどのような切り口での分け方が相応しいかをメンバー全員で考えられるようファシリテーターが促すことにある。「社員旅行の行き先が決まっていること」が収束点である場なのであれば、例えば1人あたりいくら必要か?で3万円以下、8万円以下、15万円以下、それ以上といった分け方が考えられる。切り分け方そのものが、いざ決定するときにメンバー個々人が自分の懐事情と見合いながら決断を促すというナッジ1になるからだ。懐事情より強力でポジティブなグルーピング例は、コンセプトを文章化しグループの名前にすることが挙げられる。「いつか自分の親御さんを連れて行きたい国の下見」とか「海外の関連企業の商圏視察をメインに観光もできる」などたくさん浮かんでくる。そのコンセプトに合意さえできればおそらく候補は2, 3に絞られるだろう。あとは投票でもすれば納得感のある決定となるだろう。

技法は、単体ではどんな場でも機能しない。状況を、「事前」と「今、ここ」の2回ある機会を活用することで適切に見極めて複数の技法を重ねる必要がある。
訓練を受けたファシリテーターを複数存在させることも有効だし、さらには参加者を巻き込んで技法選択を検討できるとなお良い。
各技法は、前後の技法の接着面を「場の設計技法」によって明文化することで初めて機能する。単体の技法のみの安易な導入は、場の失敗につながる。組織内の信頼関係を毀損しかねないばかりか、下手をすると一部の仲間に心の傷を負わせるリスクが発生してしまう。十分な善意と設計を熟慮してその場に臨むことがファシリテーターの義務であることを踏まえて、各種技法を活用して欲しい。

記:ワークショップ設計所 小寺
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付録

  1. ナッジに関しては、読みもの「ナッジ理論を用いたファシリテーターの環境づくり」で紹介している。