場の発散技法: 『心のクリアリング』

ファシリテーターの思想
場の技法シリーズの17回目をお送りいたします。
今回は「発散」の技法の1つ、『心のクリアリング』について記しました。

メンバーが一人ずつ、「いま心に浮かんでいること」をメンバーにただ告げ、告げられたメンバーはなるべく「ただ頷く」というストローク1を送る発散技法、これが『心のクリアリング』である。

この意味で、原始的なチェックイン2に近いが、『心のクリアリング』では、最低でも10分、「いま心に浮かんでいること」をメンバーにただ告げ続ける。告げられたメンバーはなるべく「ただ頷く」を繰り返し続ける。口を挟んではいけない。

別に10分のうち何分間か沈黙があっても構わない。ただ沈黙の間も何か心に浮かんだことがあればできるだけ言葉にして口に出すよう伝えておくとよい。(沈黙の間も他のメンバーは口を挟まないでおく。)だいたい5, 6分も話せば話すことが無くなってくるがそこからがこの技法『心のクリアリング』の本番である。眠たいだとか空腹だとか、一見不真面目そうなことも言葉にしてメンバーに聞いてもらいクリアにしておくこと大切である。(だからこの技法はクリアリングと呼ぶ。)
10分間等と時間を決めずに、だいたい15分前後と時間を曖昧にして、この『心のクリアリング』を実施することもある。ファシリテーターは止め時を見極めることが大切だ。以下のようなときは、「そろそろ終わりましょうか。」と止める合図をするとよい。(1)自分の身体の状況、たとえば「ちょっと昼食を食べ過ぎてお腹の具合が不安」、などを話し始めたとき、(2)「いま遠くで鳴っている救急車の音が気になる」など五感が研ぎ澄まされてきたと思われるとき、(3)「話すことがなくなって不安になってきました」など自分の状況を第三者視点から語るようになってきたとき である。(これらの状況が起こったからといって直ちに『心のクリアリング』の中止を告げなくてはならないわけではない。止めなくてはならない基準はこのように曖昧であるので、ファシリテーターは状況判断のための感性を研ぎ澄ませながら実施するとよいだろう。また可能であれば、ファシリテーターもメンバーに対して『心のクリアリング』ができるとなおよい。)

『心のクリアリング』では(チェックインもそうだが)、一見、本題やアジェンダとは関連のないことが話されることになるから時間の無駄と受けとめられるかもしれない。しかしながら、人の心というものは不思議なもので、何か気がかりなことが無意識の領域にでもあると、本来話したり考えたりしなければならないことと頭でわかっていても、目の前のことに集中できない。人は機械ではないのだから当然といえば当然だが、効率や即断を是とするビジネス環境においては見過ごされがちである。この『心のクリアリング』をじっくりと行うことで、かえってその場が円滑になることを知っておくのも良いだろう。

この技法のためには他者との場を確保することが大切だが、どうしても時間が合わないときは「いま心に浮かんでいること」を1人で大きな白紙に書き出す(「ジャーナリング」としばしば呼ばれる)と似た効果を得られることもある。ただ、他者を通じたダイナミクスの機会を逃すため、できるだけ誰かとこの技法は行いたい。

『心のクリアリング』の実施シーンは、スモールグループでのダイアログや会議だけに限らない。2人で話し合う1on1ミーティングにも導入できる。ファシリテーターは職場やグループの状況をよく観察し、必要なときに思い切って実施を呼びかけてみてほしい。

技法は、単体ではどんな場でも機能しない。状況を、「事前」と「今、ここ」の2回ある機会を活用することで適切に見極めて複数の技法を重ねる必要がある。
訓練を受けたファシリテーターを複数存在させることも有効だし、さらには参加者を巻き込んで技法選択を検討できるとなお良い。
各技法は、前後の技法の接着面を「場の設計技法」によって明文化することで初めて機能する。単体の技法のみの安易な導入は、場の失敗につながる。組織内の信頼関係を毀損しかねないばかりか、下手をすると一部の仲間に心の傷を負わせるリスクが発生してしまう。十分な善意と設計を熟慮してその場に臨むことがファシリテーターの義務であることを踏まえて、各種技法を活用して欲しい。

記:ワークショップ設計所 小寺
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付録

  1. ストローク: 交流分析の用語。ここでは、他者への働きかけや関わりを持とうとする行為全般の呼称と思っていただければよい。当設計所のパーソナルトレーニングで詳しく扱うテーマの1つである。
  2. チェックインについては、場の導入技法: 『チェックイン』で詳しく紹介している。