セミナーでのグラフィック活用を考える

場とテクノロジー
今回は、地方自治体が開催していたセミナー事例について。ワークショップ的手法を活かして工夫したら、みんなの満足度があがると思う。というお話です。

個人的な活動として、ここ1年ほど地方移住を促進する目的で開催されているセミナーにたびたび参加しています。進学のため上京してもう20年以上たちましたが、この先の暮らしを考えると老後はコンクリートジャングルではなく、自然の多い地方で暮らしたい気もする。今すぐというわけではないが情報収集はしておこう。というわけで、先日も自分の出身エリアの某自治体が設けたイベントで60分程度の「座談会」に参加してみました。

そのなかでセミナー運営側と参加者の間にコミュニケーション不足が生じたまま解決されなかった場面に出会いましたので、考えたことを記しておきます。

参加した座談会の状況

会場
イベント会場の一角で開催。音が反響しやすい構造の空間であり、参加者やスタッフの話し声で全体的ににぎやか。
レイアウト
2本の会議用机が島型に配置され、会議用のイスで机を丸く取り囲んである。外が見える大きな窓を背にして、運営側スタッフ3名が着席。参加者が残りの椅子を埋めるように着席。座談会は盛況で座席が足りず、スタッフから見える位置に2重目の円を作る形になった。
参加者
参加者の年代は20代~推定70代。50代以上の参加者が多かった印象。入退場自由のため、セミナー途中から参加者が増えてきた。
音響
運営スタッフも参加者も肉声で発言。マイクは用意がなく途中から使うこともできない。座談会が行われている2メートル横では、求人募集している企業の説明会が行われており、話し声を遮るパーティションはない。パーティションを置くだけの場所も確保しづらい。
座談会の内容
最初に簡単な個人ワーク。渡された用紙にチェックを入れていくもの。その後に進行役(自治体職員さん)から少し情報伝達があり、そのあと進行役が参加者へ質問を提示し、参加者が座った順番に沿ってひとりひとり答えていくスタイル。

気になった場面

1つ目。質疑応答のなかで、参加者である一人のおばあちゃまの発言が、お声が小さく、参加者全員の耳に届かなかったこと。

2つ目。後列に座っていた参加者のお一人(Aさんとします)が、上記をうけて「(おばあちゃんの声が僕たちには)聞こえないよ!」と運営スタッフへ明確に意思表示をしたものの、対応がなされることがなかった。

声を上げたけど取り合ってもらえなかったAさんは不満そう。座談会の最中に他の参加者へしきりと「聞こえないよな?」というジェスチャーを無言で送り続けていました。私も後列でAさんの近くに座っていましたが、確かに聞こえなかったのです。運営スタッフの正面、前列に座ったおばあちゃまは発言しているけど、実際としては聞き取れない。自分はいかにも聞いているような顔をして、ただそこに座っているだけという時間が発生していたのでした。

どのような対応が考えられたか

いったん視点をひいて俯瞰してみましょう。すぐに思いつくところで場づくり改善の方向性は、少なくとも3つあります。

  1. 当日進行(ファシリテーション)で対応する
  2. アナログ:手がきのグラフィックを導入して対応する
  3. デジタル:テクノロジーにサポートしてもらう

この個別ケースに関してであれば、一番お手軽で、すぐに導入できたであろう工夫は、改善方向2で、リアルタイムでのグラフィック(書き取り)を導入することではないでしょうか。少々の文具と、3名いたスタッフのうちの進行役をしていない1人が担当すればよいのです。

意味のある質疑応答が発生し、周りの音を遮ることができない状況。とはいえ参加者の人数規模や、互いが座る距離から考えて、文字を見ることなら可能な場所での開催です。この状況なら、模造紙と太い水性ペン(プロッキーなど)を使って、可能な範囲でレコーディングしたらいいんじゃないでしょうか。参加者の満足度も、全体で共有できる情報量も増えると思います。

このときを思い返すと、改善方向性1「進行役がファシリテーションで何とかする」は、ちょっと難しかったように思うのです。

  • 参加者(おばあちゃん)にお願いして、大きい声を出していただくのはおそらく難しい。
  • ブースのすぐ隣で、企業が人材募集の説明会をしているのはイベント仕様上、回避できない。
  • 参加者が途中から徐々に増えてくる、いつ出入りするかは運営側がコントロールできない。
    イベント主旨を考えれば増えていくことが望ましい。

これらの制約を考えると、会場の壁または机の上に模造紙を広げて、参加者から見えやすいように大きい文字で、参加者の発言を書きとっていく。そのためにスタッフを1名置くことで、より座談会全体の生産性があがったのではないかと思うのです。

この座談会でAさんと私を含めたその他の参加者とは「移住に興味がある」「移住の検討に役立つ情報を知りたい、そのために場にいる」点で、利害が一致していました。つまり参加者のひとりが発言する内容は、全員に役立つ可能性が高い。全体で共有する価値があります。

しかも書いていくことで情報が紙面に蓄積されます。

仮に、後から場に加わった参加者Bさんがいたとしましょう。記録があるおかげで、Bさんは自分が場に加わる前に何が話されていたのかを知ることができます。その中にBさんが知りたい情報があれば、一瞬で情報収集が終わります。Bさんがそれまで既に出ていた質問を繰り返すこともないでしょう。まだ場に出ていない新しい情報が出てきたり、他の参加者にも役立つ質疑が展開したりすることも期待できます。

話し合われた内容をその場にいる全員で共有するにはいろんな方法がありますが、「みんなに見える場所に、大きな字で書いていく」であればマイクなしで実現できます。おばあちゃんだって、細い声帯に無理をかけて声をはりあげる必要がありません。必要な道具といえば、模造紙を数枚・水性ペン数本・模造紙を固定するテープくらい。数百円です。こういう場合、もっともコスト高なのは人員ですが、そもそも運営スタッフは3名いました。全員が同時にしゃべるわけではありませんから、そのとき手の空いたひとりが記録係をすればいいのです。記録係を参加者のなかから募ったり、お願いしてもいいです。ひとりでなく数人で書いてもいい。そうして“みんなで作る参加型セミナー”にしてしまうのも一手です。

人間がしゃべっている発言を、リアルタイムで一言一句もらさず聞く&書くことは不可能で、必ず要約にはなります。聞き漏らしも起きうるでしょう。聞き取れなかったら、参加者へ「すみません、もう一度お願いします^^」と言えばいいのです。せっかく発言したのに、なかったことのように忘れられたりするよりも、参加者からすれば、ずっといい。それにこういったレコーディングは経験を重ねると上達しやすいスキルです。ですからまずは、やってみて欲しいと思う次第です。

ちょっと深入り:参加者の意思表示とスタッフ対応について

ちなみにこの事例、座談会の進行を担っていた運営スタッフは、Aさんの「聞こえないよ!」という意思表示を無視したわけではありませんでした。「聞こえないよ!」に対して「わかりました!僕がもっと声を大きくしてしゃべりますね (^v^;)」と返答したのです。

Aさんの近くに座っていた私は(いやいやいや!あなたの声はちゃんと聞こえてる。聞こえないのは、そして私たちが聞きたいのは、前列に座っている参加者であるおばあちゃんの発言だよ!)と思わず心のなかでツッコミをいれました。なお、その職員さんが「わぁ。クレームをつける困った人がいるな…」と受け取った表情をしたように見えたことも付記しておきます。

実際にはただ、想定外の事態がおきて焦ってしまい、それが顔に出ただけ。という可能性も高いんですよね。双方向の対人コミュニケーションの場を進行することに慣れていない方の場合、あるあるです。それでも言葉にしなければ、参加者は見えた情報、たとえば表情を、自分の印象や思惑で解釈しますからね。そして、自分の解釈を真実だと思いこむ。人間だもの。

Aさんはふと、近くに座っている私へ顔を向けてきました。私とAさんは(いま伝えたかったのは、そこじゃないよね?)と目を合わせて、軽くうなづきあいました。Aさんと私は初対面でしたが、座談会の参加者同士、その瞬間はなんだか心が通じた気がしました。

座談会が終わった後、Aさんは私に話しかけてきて雑談が弾みました。Aさんはスポーツ好きのようで、都内で気持ちいいサイクリングができる散歩道について親切に教えてくれました。Aさんからしたら、座談会は、自分が素直に声をあげたのに結局その発言は活かされずに終わってしまった場でした。私との雑談でAさんの気分が少し晴れてくれたらいいなぁと願いながら、私は自分も感じていた不便な気持ちをセミナー中に代弁してくれたAさんに、心の中で頭を下げました。

あの場で成果を出したいのは誰だったのか

さて、ここからはちょっと妄想です。
もしもその時の進行をされいたスタッフさんがこの記事を読まれていたとしたら……

「え、僕はまちがって解釈していたのか。だったら『違うよ!おばあちゃんの発言が聞きたいんだ!』って言ってくれれば良かったのに!どうしてその場で言ってくれなかったんだ!」と思うかもしれませんね。そうですよね。お気持ちわかります。でも……参加者は、そんなことをする義理があるでしょうか。義理が適切でなければ、勇気があるでしょうか?

“そんなこと”とは、自分が一度声をあげたにも関わらず、運営スタッフが真意をとりそこね、しかもその発言を歓迎しないような表情をされたあとで、めげずに再度主張することです。それ、結構ハードルが高くないでしょうか。

座談会の開催状況を思い出してみましょう。

テーマは「移住について」。場を用意したのは誰でしょうか。移住者に移住して来てほしい自治体です。参加者は誰か。モチベーションの強弱はあれど、座談会にわざわざ足を運ぶ程度には移住する気がある市民です。さて、この座談会で成果を出したい人は誰でしょうか? 移住してきてほしい自治体ですね。KPI(※)がズバリ移住者数か、セミナーへの参加者数か、セミナー出席後に次のステップへ進んだ人数や移行率かは自治体それぞれだと思いますが。

参加者からすると、ぜひともその自治体の地域を選んで移住したい!というわけではありません(そこまで気持ちが固まっていたら検討座談会に参加せず、もう移住行動へ進んでいることでしょう)。移住検討者は自分の人生を左右する選択がかかっており、かつ、選べる先は日本全国にあります。今はどの地方も移住者大募集です。国から政策として号令がかかっているのですから、市町村としては仕事として移住者募集をしなくてはなりません(現場の状況や本音がどうであれ)

営業活動にも似ていますね。購入(移住)を一応検討はしているけれどまだ購入意思は高くなく、競合商品を多く認知しているであろう見込み客に対し、どのようにコミュニケーションしましょうかという問題です。今この瞬間、目の前にお客さんが座ってくださっているのは大きなチャンスです。参加者ひとりひとりに「来て良かった、有意義だった」「この自治体の対応は好印象だな!もっと細かい話を相談してみるか」そう思っていただけるような場をいかにつくるか。工夫のしがいがありますね。

この事例は自治体が主催するセミナーでしたが、例えばコワーキングスペース、採用・交流などのイベント等でも同様に考えられる件と思います。企画者・運営者・当日進行者チームの皆さんにはぜひ、参加者を思いながら、自分達も「場を用意したかいがあったな!」と喜べるように、もうひと工夫を加えていただけたらな。もし良いアイデアが欲しいときには、その工夫づくりをお手伝いしたいなと心から思う次第です。最後は宣伝で恐縮でした(^^)

※KPI:key performance indicatorの略。重要業績評価指標。業績の評価を定量的にみるための指標。

記:ワークショップ設計所 後藤
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