ファシリテーターとは

ファシリテーターとは、ワークショップとは
ファシリテーターとは、(1)個人の成長と集団の成熟、(2)成果を創出すること、この2つの視点からグループや組織のコミュニケーションを設計しその空間を進行する役割を指します。

例えば会議においては、時間内に質の高いアウトプットが出るよう導くことに加えて、参加者ひとり一人がどうすれば主体的に話し合いに参加できるかの見通しを事前に設計し進行する役割に相当します。

ワークショップ設計所では、ファシリテーターに求められる当日進行スキルに加えて事前に場を設計する力に注目し、設計支援サービスの提供をはじめ、ファシリテーションを活用する方やファシリテーターを目指す方向けのトレーニングや交流会といった各種コンテンツを提供しております。
皆さまのワークショップやファシリテーションの活用を少しでもご支援できれば幸いです。

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コラム:現代におけるファシリテーターを捉え直す

語の歴史的経緯

〈ファシリテーター〉あるいは〈ファシリテーション〉という語の登場は、1950年ごろの米国でした。現代カウンセリングの大家C.ロジャーズの実践する集団療法1の進行者を指す言葉として用いられた〈ファシリテーター〉が始まりです2。当時は主にカウンセラーの養成を目的としてファシリテーターに関する種々の研究が為されました。たとえば「集団のコミュニケーションが活発となる条件の一つは、成員一人ひとりが自己開示できるときである」は、現代の行動科学へ続く当時の重要な発見の一つです。

これらは米国の主に西海岸から発生した潮流でしたが、同国のほぼ同時期、東海岸エリアで研究されたコミュニケーション技能訓練(T-group: トレーニンググループ)の実践ノウハウ群と盛んに交流が行われました。集団を扱うためのこうした知見や技術は、1970年代に入ると異文化コミュニケーションを学ぶ三年間の教育プログラムへ昇華されました。プログラム名称は『Person-Centered Therapy』。グラスゴー大学が中心に開発し、その後各国へと広がりました。

折しも世相はベトナム戦争の泥沼化と反戦平和運動のころ。そのような時代背景も相まって、この異文化コミュニケーションを学ぶプログラム進行者の呼称には、〈リーダー〉や〈トレーナー〉ではなく〈ファシリテーター〉が好んで用いられました。開始より十年以上続いたこの異文化コミュニケーション学習の国際的機運は、のちの集団力学(グループダイナミクス)研究へと応用され、近年の〝気づき〟を重視するコミュニケーション教育へと結びついていきます。

日本では、1950年代にグループカウンセリングの手法が紹介された際、〈ファシリテーター〉も輸入されます。ここから国内でも集団療法やコミュニケーション訓練としての実践が続きますが、このファシリテーターという呼称が一般社会に浸透することはしばらくありませんでした。

時はすぎ1980年代に入ったころ、人権問題・国際協力・環境教育などの分野で、ファシリテーターによる働きかけの有効性が知られます。1990年代には、参加者の相互作用を活用した学習形式(これは「ワークショップ形式」と呼ばれます)の普及とともに、ファシリテーターは産業界でも認識され始めます。特に当時の製造現場においては、QCサークル活動3の名で各種実践や手法共有が頻繁に行われました。

2000年以降は会議やプロジェクトのリーダー的側面を強く帯び、近年ではマーケティングリサーチやデザインシンキングの実践者、配信イベントやセミナーにおいてゲストに水を向ける者の肩書き、果てはニュース記事の書き手やジャーナリスト4にまでファシリテーターという呼び名が使われ、また自称されるに至っています。

このような経緯ゆえ、〈ファシリテーター〉と耳にしたとき、目に浮かぶシーンは人によって存外バラバラです。最近のビジネス界隈では、もっぱら会議リーダーと捉える向きも多いかもしれません。他方で、研修講師や教育者のことを指すと考える方々も多いでしょう。予め決まった式次第を進める司会者と読み替える人もいます。そして先ほどの語の歴史的経緯をお読みいただいた皆さんにはご理解いただけることと思いますが、心理療法の領域で活躍するかたからは「なぜファシリテーターと会議とが関係するのですか。まったく理解できません」との声も筆者は聞いたことがあります。

会議とファシリテーター

会議でファシリテーターに期待されることのひとつは経営に資するような決議事象をつくり出すことです。そのためには「賛成です」「それでいきましょう」とたとえば口にした人、または集団が、本当にそう思っているか、納得したうえでそのように発話したのかを、目に映るあらゆる事象を手がかりによく観察し、どのように介入するか判断できねばなりません。こういった「人や集団の心の動きを察し、必要ならば介入する、必要でなければ見守る」という行為は、シチュエーションが会議推進であろうと成人を対象とした教育の担当者であろうとシンポジウムの司会者であろうと、関わる対象が人間や人間の集団であるかぎり、大きな違いはありません。

ファシリテーターを担う者は、まず一般的なビジネススキルを一定量身につけておかねばなりません。通常業務の知識、コミュニケーション能力、プレゼンテーションのスキル、課題設定と創造的解決力、論理的思考術、批判的思考術などです。そのうえで、この語が辿ってきた歴史において培われた人間や集団の心的過程の捉え方のノウハウ、学問分野でいえば社会心理学、集団力学、行動科学などの見地を十分に理解しておく必要があります。

思想的基盤

ファシリテーターが、人間とその集団をどのように捉えるのか。つまり人間観、組織観の基点をかんたんに記しておきます。

キーワードは以下の3つです。すなわち「無意識」「経験主義」「間主観性」。

まず無意識です。
心理学あるいは精神分析の領域において、アクセス先には人の意識だけではなく無意識があるという発見がありました5

次に経験主義。
行為と結果との関係を見出す教育観であり、かつての経験を振り返ることによって実践的に学習できるというプラグマティブな考えが米国において誕生しました6

最後は間主観性。
自分と相手の二者の主観性があって初めて生まれるものであり、客観未満のものです7。私(我、自己、主観、the self、一人称的存在)の認識と、相手から見た私の〝間〟に起こることの構成を試みます。

これら(当時からすると)新しい考え方をベースに心理学は精神分析を乗り越える形で行動主義心理学の隆盛がありました8。それまで主流であった内観法による意識の構成主義を主観的に過ぎると批判し、人の心的状態をブラックボックスに入れて外部から観察できる行動のみに注目して学問を展開しました。刺激と反応による動物実験が有名です。後に、刺激と反応の間に媒介変数を設定することで人間行動の法則化が試みられました。さらに近年では、情報科学とも統合し、現代心理学の主流の1つに発展しています。ファシリテーターは職能訓練や、報酬と罰則による組織管理などで現代においても接点がある分野でしょう。もう1つの心理学が、人間性心理学です9。この心理学の潮流は、精神分析と行動主義を批判して、人間ひとり一人を自ら成長し自己実現できる存在と位置づけ、心の健康に関する心理学を目指しました。ベトナム反戦論や公民権運動といった体制への反発やヒッピーブームと連動し、「人間性回復運動」の名で大衆へ急速に広まりました10。後に、コーチングとも関連の深い自己啓発セミナーの暴走や未熟なファシリテーターによる倫理なき企業研修の社会問題化を要因に1980年以降下火となるも、2010年代からはSNSの流行とともに再び注目の兆しが出てきています。

活躍領域別ファシリテーター

以上を踏まえて、以下に各領域におけるファシリテーターについて、簡単にまとめておきます。

会議のファシリテーターとは、何らか成果の創出とその創出過程に伴う各人の心的状況をケアする存在です。ここでの成果とは、例えば〝合意〟〝状況整理〟〝報告事項の共有〟〝各人へのタスクアサイン〟などが挙げられるでしょう。これら成果を、参加者全員が納得感を持って終えられるよう準備や働きかけ、会議後のフォローを行います。ですので会議のファシリテーションとは必然的に、状況の始動と先導維持や対立意見の調停、コミュニケーション内容や状況の可視化を行うことです。人に対する前向きな影響力、つまりリーダーシップと言い換えることもできるでしょう。どんな口先小手先の台詞回しやテクニックを振りかざしたところで、会議出席者に対して成果に向かうための影響力を発揮できないのであれば、行為自体に意味を見いだせなくなるためです。次に紹介する教育のファシリテーターとしての素養を、会議のファシリテーターが備えていなければならない理由の1つです。

教育のファシリテーターは、その教育内容の領域によって大きく2つに分けられます。1つは知識伝達のためのファシリテーターです。伝統的には教師(ティーチャー)の立場を指し、学習指導要領やコマシラバスに則って系統だった知識理解を助ける存在です。もう1つは人間(人間性、対人関係、集団、チームなどを含む)についての学習を促進するファシリテーターです。コミュニケーションに関する知識として一般に当たり前と感じること(例えば「人の話をきくのは大切なことだ」など)を、「確かにその通りだな」と実感を生み、実際の行動を促す働きかけを行います。企業研修のファシリテーターはここに含まれ、行動変容のための人材育成企画とその実施、評価が仕事です。以上より、教育のファシリテーションとは、(1) 豊富な知識を持ちそれを対象が理解できるようアレンジして伝達、(2) ファシリテーター自身が自分の自己概念(Self-Concept)を変容させたり拡張させたりする過程を他者に開き他者の変容に期待する態度、これら2つの実践に相当します。

対話のファシリテーターとは、自己の対話的態度を通して他者と他者、あるいは集団内の対話的コミュニケーションを促す存在です。対話とは相互理解を目的としたコミュニケーションモードを指しますが、結論への収束を可能な限り保留し、その場の全員が自分自身と相手との相互関係過程から自分や他者について学ぼうとする積極的、探求的な状況が出来上がるよう、働きかけます11。つまり対話のファシリテーションとは、時に話し合いを始動するリーダーシップ、背景情報を伝達したり自己と他者からの学習を促す教育者としての能力、無意識に持つ価値観やバイアスを相対化する心の置き方など、複合的な実践を指すと言えます。実は、ビジネス領域における会議のファシリテーションにも取り入れたい考え方です。また組織開発(O.D.: Organization Development)の分野では、診断と併せて中核的な意義を持つのですが、詳しくは稿を改めることとします。

表現のファシリテーターとは、建築、彫刻、絵画、音楽、詩、ダンス、演劇といった芸術的領域において、表現者(あるいは表現者たち)の価値明確化や技能訓練の担い手を指します。実際に身体を動かすよう指示したり、簡単な創作物を制作させたりしながら、専門的アドバイスや経験から浮かんだ率直な感想の伝達(フィードバック)などを行います。

付録

  1. この集団療法は「エンカウンターグループ」あるいは「グループエンカウンター」と呼称されています。
  2. なお同時期、F.パールズ提唱のゲシュタルト療法において、カウンセラーの立場をファシリテーターと呼んでいました。前述の集団療法「エンカウンターグループ(グループエンカウンター)」もこのゲシュタルト療法が大きく影響しました。
  3. 自発的に小グループに分かれて、QC(Quality Control, 品質管理)を実践し、現場の改善を継続的に行っていく活動の呼び名を指します。
  4. 日刊工業新聞のメディア「ニュースイッチ」では記事末尾の記者名の肩書にファシリテーターが使われています。
  5. 神経症を無意識からの抑圧としたのがS.フロイト[1856-1939]です。
  6. J.デューイ[1859-1952]による。C.S.パース、W.ジェイムズらと共に米国プラグマティズムを形作りました。彼は「子どもたちは為すことによって学ぶ。(Children learn by doing.)」という言葉を残しています。よく引き合いに出される「為すことで学ぶ。(Learning by doing.)」は後世の人たちの創作であり、子どもへの教育観がそのまま成人にも当てはまるかは保留が必要でしょう。なお、A.スミスの自由放任論を批判する形で、「他者と関心を共有し経験を相互拡大して問題解決にあたる実践能力を高めていく共同生活様式を『民主主義』と呼ぶ」とした点は現代から見ても非常に示唆に富む言説です。
  7. 提唱者はE.フッサール。K.ガーゲンによる社会構成主義にも連関する考えです。
  8. 代表的人物:J.B.ワトソン[1878-1958], I.パブロフ[1849-1936], C.ハル[1884-1952], B.F.スキナー[1904-1990]ほか。
  9. 代表的人物:A.マズロー[1908-1970], C.ロジャーズ[1902-1987], K.レヴィン[1890-1947], D.マグレガー[1906-1964], F.ハーズバーグ[1923-2000], C.アージリス[1923-]ほか。
  10. ここで前述の異文化コミュニケーション学習の機運と連関します。
  11. 対話(dialogue, ダイアログ)については、読みもの「場の発散技法: 『ダイアログ』」も併せて参考ください。