近年は専門資格職業、通称士業の方やデザインスキル他の専門知識や技能があった上での兼業も多い印象です。
そのためファシリテーター自身のスキルアップ、継続学習、メンタルヘルスの維持、知的探求のネットワーク構築がまだきちんとできておらず、ファシリテーションが社会に安定して貢献するには課題があると感じています。
だから…というわけでもないのですが、楽しんで学び合える実験を主眼に、「ワークショップ設計図ひもとき会」と銘打って勉強会をこのほど開催してみました。
学習素材
ワークショップ設計所では、設計者の共通言語である「ワークショップ設計図」形式でプログラムを組みます。その共通言語にのっとって設計された2つのワークショップ、AとBを事例として提供していただきました。
- ワークショップA
- 設計者:20代男性
進行:同じ男性
- ワークショップB
- 設計者:40代女性→30代男性
進行:30代男性(設計を途中で引き継ぎ、当日も進行した)
ひもとき会当日の流れ
- 「ワークショップ設計図」をもとに、ワークショップAとワークショップBの事前設計を解説
- ワークショップAとワークショップBを実際に進行した結果を解説
- 参加者から、疑問を自由に出してもらう
- 全員の疑問をあつめ、全員で眺める
- 自由なダイアログ1
※他に自己紹介やアイスブレイク、チェックアウトなどを行いましたが割愛します。
参加者の声
個人的には、頭も体もヘトヘトになりました(笑)
ファシリテーターとはもともと重層的に思考しながら行う知的総合格闘技のようなもので、並行作業にはそこそこ慣れているつもりでした。
とはいえ、この「ひもとき会」はファシリテーター向けに設計された勉強会。参加するだけでも楽ではありませんでした。
また後半のダイアログでは久しぶりにホワイトボードへの板書役を担いましたが、話の展開が早くて右腕がつりかけました。
わずか20分程でホワイトボードは真っ黒に文字でうめつくされました。(そもそも、つるほどのスピードで情報量を書きとるべきかについては、かねてより気になっている点です。この日の体験で、引き続き自分の探求テーマとなりました。ファシリテーショングラフィック、あるいはグラフィックレコーディング と呼ばれる領域の課題です。)
なお、大量に生産された数十の疑問から、いくつかを紹介します。
- 当日進行するとき、ファシリテーターは手元にどんな資料をもっていたか? また何かをメモしたか?
- 設計図に記されていた「集合的な発見」とは何か?
- アドバイス、アイデアを自身に腹おちさせるには?
- 事前設計のプログラムを捨ててその場でプログラムに変更したそうだが、なぜ? その時の気持ちは?
- ワークショップAの設計者兼進行者さんが、ワークショップを実施していたとき、いちばん嬉しかった瞬間は?
最後の問いかけは、参加者の全員が「この疑問は本人にぜひ聞きたい!」と声をあげたものです。
実は、ワークショップAは、設計と進行をした男性が、人生で初めて自分でゼロからワークショップを設計し、初めてファシリテーターを務めたものでした。
この日の「ひもとき会」参加者の多くは、ワークショップの設計や進行を何度もつとめ、プロとして活動している方も含まれています。その全員が最後の問い「いちばん嬉しかった瞬間」をたずねたがった場面は印象深く私の記憶に刻まれました。10年以上前に自分が初めて足を踏み入れた茨の道を、新たに並んで歩こうとしてくれる若い世代がいる。その喜びは言葉では表せません。
ワークショップのひとつひとつが設計され、実施された結果との差異から生まれる独特の体験やノウハウは、通常は行った本人の記憶に蓄積されるだけです。ワークショップ記録や保存を何もしなければ、その人間が世を去ると同時に消えてゆく。
けれども「ひもとき会」という場があったことで、ベテランから新人へ、そしてまた新人からベテランへも手渡される何ごとかがあり、双方向に行き来して全体としてはナレッジが受け継がれ深まっていく。その瞬間を、リアルタイムに、五感をともなって感じられたことの幸運に感謝したいと思います。
お知らせ(イベントは終了しました)
次回の「ワークショップ設計図ひもとき会」は5/11(土)です。ご興味のある方は下記よりお申し込みください。
付録
- ダイアログとは何か、読みもの「場の発散技法: 『ダイアログ』」で詳しく説明しました。