グループサイズのいろいろ
ワークショップでは、その目的に応じてグループ活動が推進されます。
よく採用されるグループ活動ですが、その活動へメンバーが参加する心理的ハードルの1つがグループサイズです。
そのときのメンバー同士の関係や、扱うテーマによって適切なグループサイズをファシリテーターは選択せねばなりません。
1人で。(個人作業)
最も小さいグループサイズは1人です。(もはやグループではないかもしれませんが、ファシリテーターが念頭に置くとよい活動サイズの選択肢の1つです。)
メンバーは、なんらかのテーマについて、誰とも話さず一人で考えたり、書いたり、描いたりする時間を過ごします。
流暢すぎる内容や、笑いがとれてしまうネタ的発言などにグループのメンバーが流されすぎることを防ぐ効果がある進め方です。
ただ、この状況はあくまで各々が孤独である状況を意図的にデザインしたものであって、メンバーを見捨てることでは当然ありません。詳細は後述します。
2人で。(ペアでの活動)
次に小さいグループサイズは2人です。
ペアで何かについて語らったりできますし、語らうときに何らかのルールを設けることも可能です。例えば片方は相手に質問しかできず、もう片方は質問されたことだけにしか答えられないなどのルールがあれば、コーチングの訓練を実施することができます。
(このコーチング訓練の勘所は、このルール運用直後のふりかえり方にありますが、本題からそれるのでここでは割愛します。)
3人で。
3人での活動もなかなか独特です。「3人よれば文殊の知恵」の言葉通り、上下関係や二者対立を乗り越えやすいグループサイズです。
2人での活動に対して、第三者が観察役として関わることもできますし、状況に合わせた応用が効くグループサイズといえるでしょう。
ただし、このグループサイズを選択する場合、もしその場での対応力に自信がないのであれば、欠席者などから3人ずつに分かれられないときの設計を、あらかじめ考えておく必要があります。
全員で。
1人, 2人, 3人といった少人数活動とは反対に、最大のグループサイズはその場にいる全員での活動で、「ラージグループ」とも呼称されるサイズです。日本語では全体会とも呼ばれます。
全員で討議したり体操したり、成果物を発表・批評しあったりと、ダイナミックに場の力を扱えます。組織開発の分野では〝診断型〟に変わって、このラージグループを活用した〝対話型〟が一般的になってきました。
筆者は300人超での全体会をファシリテーションした経験があります。大人数ならではのそれはエキサイティングな場になりました。どれだけ人数が多くても、できるだけ場の一人ひとりと向き合い共にあること、そして、自己組織化・創発・カオス理論と行った複雑系システムの扱い方を体得しておくことが、この全員での活動において大切なことです。大勢とのかかわり合いになりますから、サブ・ファシリテーターも活用するとよいでしょう。
グループ活動の名称いろいろ
ところで、グループ活動(ここでは3人〜マックス15人くらいでの活動)は、皆さんどのように呼んでいますか?
ワークショップで用いられるグループ活動には名称が様々あって、それぞれはどのような特徴やニュアンスをもつのか再考してみます。
ザッと考えて7つの名称が浮かびましたので、1つずつ見ていきましょう。
1.「グループワーク」(あるいは単に「ワーク」とも。)
メアリー・リッチモンド1らによって体系化された〝ソーシャルワーク〟における方法論の1つとして使われた呼称が「グループワーク」です。
元々はセツルメント活動2に始まり、診断主義学派を経て機能主義学派の台頭による、個々人の社会的適応を促す手段としての小集団(グループ)が注目されました。
グループワーク(あるいはワーク)は、現代において汎用的に使われる言葉ですが、社会福祉分野から始まる支援技術であることをファシリテーターは忘れてはならないでしょう。また、昨今では「グループディスカッション」という用語と同列的に見られがちで、40代以下の方には「就職活動」のニュアンスを帯びることもあるため、この語を用いる際は注意したいところです。
2.「エクササイズ」「演習」
エクササイズ(exercise)は14世紀半ばから、訓練のための練習という意味で使われた語で、後に、他者に対する教育やスキル開発の意味を含むようになりました。なお、身体活動に従事すること、つまり運動することの意味は1600年代後半から使われだしたようです。
ワークショップ中のグループ活動ではそのまま「エクササイズ」か「演習」と訳して使われる場面が多いようです。いずれも軍事用語とも重複するところがあること、また、何らかの練習問題を解くニュアンスを含むことから、ワークショップ進行者と受講者に不要な上下関係を助長しないよう気をつけたい言葉です。
3.「アクティビティ」
12世紀の古フランス語actif(アクティス)が語源。宗教的瞑想状態に対比する形で、直接的な行為そのものをあらわした言葉から転じて、活発さ・元気・活気ある状態を指す言葉になりました。
なお教育現場でのグループ活動を意味するようになったのは20世紀初頭です。
最近では、旅先で身体を動かすためにプログラムされた遊びを指したり、SNS上での活動履歴を表したりもするようになってきました。
ワークショップでは、自然の中など野外で行うグループ活動には、アクティビティという名称がよく使われます。
4.「セッション」
もともとは主に司法機関における「座った状態の集会」をあらわす言葉で14世紀ごろに生まれました。1930年前後には「ジャムセッション」という即興的な演奏・掛け合いを示す言葉にも派生し、この様をメタファーに、ワークショップでのグループ活動を指す言葉として使われています。
支援者と被支援者(例えばカウンセラーとクライエント)の1体1での時間が区切られた話し合いを「セッション」と呼ぶこともあります。
5.「バズ」(あるいは「バズ・セッション」とも)
ハチなどの昆虫の羽音をあらわす言葉で、日本語では「ブーン」や「ブンブン」にあたります。転じてガヤガヤとした話し声を指すようになり、特に大人数でのワークショップにおいてグループ同士の話し合いを「バズ」「バズ・セッション」と呼ぶことがあります。
最近では口コミを活用したマーケティング用語とも重なるため、少し使いづらい言葉になったかもしれません。
6.「ふりかえり(リフレクション)」「共有(シェア、シェアリング)」
「では、『ふりかえり』をしてください」とか、「これから『シェア』をお願いします」といった風に、グループ活動の名称として使われる場面があります。
参加者からすれば、唐突に上記のようなことをファシリテーターから告げられても、「何をふりかえればいいのか」「何を共有すればいいのか」といった補足が必要なため、こういった呼称を用いる場合はワークショップ設計段階で指示内容をあらかじめ明確にしておかねばなりません。
7.「ダイアログ」
英語ではdialogue、日本語では「対話」と訳されます。
対話は、本来、「対(つい)」での「話」ですから1体1、つまり2人での話し合いを指す言葉でしたが、現代では意味が広がり複数人で話し合う活動を指すようになりました3。
ダイアログは、「ダイア」と「ロゴス」という2つのギリシャ語から派生した言葉です。「ロゴス」は「意味」を、「ダイア」は「通ること」をそれぞれあらわし、「ダイアログ」は「お互いの間に意味が通っていること」を指します。
傾聴を伴わない雑談や、決定を必要とする議論とは、まったく異なる話し合い形態ですので混同なさいませんよう。
出生としての活動
ところで、ワークショップでの活動を紹介するにあたってハンナ・アーレントの言説は外せません。ハンナ・アーレントは、20世紀を代表する政治思想家です。ナチズムの台頭とホロコーストを経験したことから、全体主義や悪の陳腐さについて鮮やかに考察しました。
彼女は、人間の生活を観照的生活と活動的生活の2つに分けた上で、後者をさらに「労働 labor」「制作 work」「行為 action」という3つのカテゴリーに分類しました。
ここでの「労働 labor」は、自身の生命自体を維持するために消費財を生み出す自然循環的活動を指します。対して「制作 work」は、自然界には存在しない耐久性の高い人工物を作り出す活動です。労働 labor によって作られたものはすぐに消費されこの世からは無くなりますが、それに対して、制作 work によって作られたものは半永久的に世界にとどまり、世界自体の一部を構成し続けます。この人工物を介して、複数性4を特徴とする我々はヒト以外の動物とは異なる関係を互いに築き、話し合うことが可能となります。3つ目の活動「行為 action」は、他者に対して自らについてを自発的に語る活動です。それは他者と了解を目指すために、あるいは、対立点を明確にするために行われます。アーレントは人の見捨てられた状態 loneliness/Verlassenheit が全体主義化の根源的な条件の1つと考えました。
テロルのもたらす複数性の破壊は、一人一人の個人の心にすべての人間から完全に見捨てられた verlassen zu sein という感情を残す。[……]イデオロギーの強制的・強要的な演繹とこの見捨てられていること(フェアラッセンハイト)との奇妙な結びつきは、政治的には明らかに全体主義的支配機構によってはじめて発見され、その目的のために利用された。
ハンナ・アーレント(1951) 大久保和郎 大島かおり訳『新版 全体主義の起源 3』(みすず書房, 2017), p.318f.
この見捨てられた状態を克服するための活動が行為 action です。
わたしがみずからとともにあり、自己によって判断することは、思考のプロセスにおいて了解され、実現されるものです。そしてすべての思考のプロセスは、わたしが自分に起こるすべてのことについて、みずからとともに対話する営みなのです。この沈黙のうちでみずからとともにあるという存在のありかたを、わたしは孤独と呼びたいと思います。孤独は一人でいるのに、それでいてほかの誰か(すなわちわたしの自己です)とともにいることです。それは〈一人のうちで二人〉であることです。
ハンナ・アーレント(2003) ジェローム・コーン編 中山元訳『責任と判断』p.162.(太字は傍点)
見捨てられた状態 loneliness/Verlassenheit と、孤独 solitude とを、アーレントは区別しました5。先に紹介した1人での個人作業は、アーレントの用語を使うならば孤独 solitude 状況をデザインするファシリテーターの働きかけに相当します。solitude は一人の状態を指す言葉ですが、特にその一人さを楽しんでいるニュアンスを含みます。アーレントにとって、孤独とはポジティブな状態でした。一人でいることを自ら選択し、自分自身と対話する状態に置くことを孤独 solitude と称したのです。孤独の最中では、自身の経験、意見、判断を熟考し、批判的思考を行うことができます。孤独である人は、見捨てられた状態 loneliness/Verlassenheit において起こる外界との接触を失うことはありません。むしろ、自分の内なる対話相手であるもう一人の自分が、外界や他者を代表し得るため、有意義な方法で他者と関係を持つことを可能にする状態です。さらには、この一人での思考によって、人は、揺らぐ自己のアイディンティティを確かなものにできると言えるでしょう。
この読みもの前半で集団サイズや名称を見てきましたワークショップにおける各活動は、アーレントの術語を用いるならば、日常の労働的活動の終わりなき円環から一時的にでも距離を置き、ファシリテーターが制作し道案内をする人工的環境を手がかりに、メンバー全員で「制作 work」あるいは「行為 action」を試みる時間と言い換えることができるでしょう。
アーレントはまた、「行為 action」を出生に対応する活動と位置付けます。彼女の師であるハイデガーが述べた死への先駆的決意性とは対照的な考え方です。死への先駆的決意性は、どこかの誰かから借りてきた言葉(世人)で自分を語るのではなく、「どんな人として自分は死にたいのか?」と自分に問うあり方を指します。しかし、死とは人の存在を制限し予測可能とします。一方で、出生は新規性と変化の可能性を開きます。アーレントは、人は死ぬために生きるのではなく、何か新しいことを始めるために生きるのだとこの議論を発展させました。
この三つの活動力のうち、とりわけ action は、出生という人間の条件に最も密接な関連をもつ。というのは、誕生に固有の新しい始まりが世界で感じられるのは、新来者が新しい事柄を始める能力、つまり action する能力をもっているからにほかならないからである。この創始という点では、action の要素、したがって出生の要素は、すべての人間の活動力に含まれているものである。その上、action がすぐれて政治的な活動力である以上、可死性ではなく出生こそ、形而上学的思考と区別される政治的思考の中心的な範疇であろう。
ハンナ・アーレント(1958) 志水速雄訳『人間の条件』(ちくま学芸文庫, 1994), p.21.
(対応語を action に変えて引用しています。)
私とあなたの間にある人工物はテーブルでも構いませんし、現代においては何かオンラインツールかもしれません。大切なことは自発的な〝語り〟や〝語られ〟が、常に更新され続ける世界の新参者として、新たな活動を生み出すのです。それは言い換えるならば、あなたが職場でほんの小さくともワークショップを開くことかもしれません。ファシリテーターとして、(そう自称せずとも)振る舞うことでもありましょう。
記:ワークショップ設計所 小寺
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付録
- Mary Ellen Richmond[米国, 1861-1928]:英国産業革命に端を発する資本主義社会発展の過程において生じた賃金労働者の窮乏に対応するために19世紀始まった宗教的実践の技術を、属人的な試みから専門的理論として体系化し発展を促進した人物。
- settlement:原義は住む場所を決め身を落ち着かせること。転じて、専門家が都市の比較的貧しいエリアに定住し教育、医療、保育などの面から援助を行い地域の生活や文化の向上をはかる事業を指す。隣保事業とも。
- ダイアログの意味の広がりについて読みもの「場の発散技法: 『ダイアログ』」で詳しく説明しました。
- 複数性(Pluralität, plurality): 同じ存在が複数あり、同時に、同じ存在であるにもかかわらずそれぞれがすべて異なる差異性をもち、互いに対等・平等に複数の個体が共存できる様態。
- 加えて一人であることを、見捨てられた状態 loneliness/Verlassenheit、孤独 solitudeとは別に、孤立 isolationも区別してアーレントは論じますが、ここでは本論からは逸れるため詳細は別稿に譲ることとします。