今回は「発散」の技法の1つ、『ショートブレスト』について記しました。
ショートブレストは、短い時間で何らかのテーマでひたすらアイディアを出し続ける作業を指す。短い時間とは1分から長くても3分程度。アイディアを付箋に書くのもよい。急速にアイディアを大量に出す環境をつくることで、場の空気を引き締め、テーマに集中できる環境が作られる。また、互いの持つ情報の共有も一定期待できる。
ブレストとは、ブレインストーミングの略称である。グループでのアイディア創造技法の1つとされ、米国広告代理店副社長のオズボーン1によって提唱されたが、現代での経営学研究では「アイディアを出すためには非効率」とされている。例えば入山(2015: 122-124)は、メタアナリシス2によってグループよりも個別にアイディアを出した方がバラエティに富んだ質の高いアイディアが出ることを示す研究結果を紹介している3。
ではワークショップにおいてはショートブレストが発散技法足り得るだろうか。前述の通りアイディアの発散には役立たない4。しかし、メンバーがグループ作業の中でどのように振る舞い、また自分はどのように振る舞いがちなのかを知り合ったり分析したりするための共通経験として、短いブレインストーミング作業は活用できる。チームビルディングを助ける素材を生むのだ。極端に短い時間の中で、黙々とアイディアを挙げるものもいればメンバーを鼓舞する者も表れるだろうし、進め方を手早く提案する者もいるだろう。そういったグループの中のダイナミクスが『ショートブレスト』によってあらわれることが期待できる。一端でもあらわれたダイナミクスを手がかりに、そのグループのプロセスを見直し、本題での議論の移行を円滑にするための技法がショートブレストである。
技法は、単体ではどんな場でも機能しない。状況を、「事前」と「今、ここ」の2回ある機会を活用することで適切に見極めて複数の技法を重ねる必要がある。
訓練を受けたファシリテーターを複数存在させることも有効だし、さらには参加者を巻き込んで技法選択を検討できるとなお良い。
各技法は、前後の技法の接着面を「場の設計技法」によって明文化することで初めて機能する。単体の技法のみの安易な導入は、場の失敗につながる。組織内の信頼関係を毀損しかねないばかりか、下手をすると一部の仲間に心の傷を負わせるリスクが発生してしまう。十分な善意と設計を熟慮してその場に臨むことがファシリテーターの義務であることを踏まえて、各種技法を活用して欲しい。
記:ワークショップ設計所 小寺
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