場の技法シリーズの19回目をお送りいたします。
今回は「出立」の技法の1つ、『漢字一文字』について記しました。
今回は「出立」の技法の1つ、『漢字一文字』について記しました。
その場のことを漢字一文字で各自が表現し、その理由を互いに説明しあって場を終える技法である。例えば、「今日の話し合いを漢字一文字で表すとなんでしょうか。手元の紙に1人1字お書きください。」こんな風に告げるとよい。もしその場がウェブ会議であれば、各自パソコンかスマートフォンで漢字一文字を思い浮かべて入力してもらい、ファシリテーターの合図で(例えばチャット欄などに)一斉に投稿して、互いが思い浮かべた漢字一文字を共有するのも面白い1。
また、漢字一文字で表してもらう対象は、なにも先の例のような「今日の話し合い」に限らない。他にも、「今日の結論へのモチベーションを——」、「今日のMVPさんを——」、「ここまで話し合ってきたチームの様子を——」、(年の瀬に)「今年1年を統括して——」、(年度始めに)「今年度の抱負を——」とそれぞれやはり漢字一文字で表してみてください、と告げるような手順が、この技法では考えられる。なお何を漢字で表してもらってどのように共有し合うかの判断基準は《タネ》である。漢字一文字での表現対象や共有方法に困ったときは《タネ》に立ち返るとよい2。
漢字は、たった一文字でいろいろな意味を含む。形そのものが意味を表すこともある。時にその読み方とは違う意味を形が示唆することもある。漢字に親しみのないメンバー(例えば英語圏の方等)が場にいる場合は別の技法が適切だろうが、参加者が漢字圏のメンバーばかりである場合には有効にはたらく技法である。
技法は、単体ではどんな場でも機能しない。状況を、「事前」と「今、ここ」の2回ある機会を活用することで適切に見極めて複数の技法を重ねる必要がある。
訓練を受けたファシリテーターを複数存在させることも有効だし、さらには参加者を巻き込んで技法選択を検討できるとなお良い。
各技法は、前後の技法の接着面を「場の設計技法」によって明文化することで初めて機能する。単体の技法のみの安易な導入は、場の失敗につながる。組織内の信頼関係を毀損しかねないばかりか、下手をすると一部の仲間に心の傷を負わせるリスクが発生してしまう。十分な善意と設計を熟慮してその場に臨むことがファシリテーターの義務であることを踏まえて、各種技法を活用して欲しい。
記:ワークショップ設計所 小寺
同じ著者の読みもの
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付録
- ただし漢字一文字を思いついた順での投稿は勧めない。漢字を思い浮かべる時間を作った後に、その漢字を各自が同時に投稿するよう告げるとよい。他者の表現する漢字一文字が視界に入る前に、自分の考える漢字一文字を考えることで、心穏やかな内省を促したいためである。
- 『タネ』とは何かについては、読みもの「場の設計技法: 《タネ》」を読んでみて欲しい。