グラフィックレコーディングの真の目的(あるいはファシリテーショングラフィックの真の目的)1つ目:相互理解の促進

ファシリテーターとは、ワークショップとは
前回記事からの続きです。

伝え手と受け手の双方を助ける

話を描き記すことは、講演者の言わんとすることを聴衆が理解することを助け、同時に、聴衆に話が伝わっているかを講演者が知る手助けとなります。

講演者内容をわかりやすく描き記せば、そこに描かれたことを聴衆がみてくれますので、聴衆に講演内容の理解を促すことができます。

聴衆の理解がイマイチである空気(たとえば各人の表情が曇っていたり寝ていたりなど)に講演者が気が付いていないと思われるときは、描き手は話が聴衆に伝わっていないことが講演者にわかるよう、その状況をうまく描く必要も時にあります。
たとえば、話している内容はあえて無視し「?」マークを大きく記すなど。講演者が、描かれた「?」マークに気がついて話す内容、順序、話し方などを変えたとすれば、講演者と聴衆は、描き手に互いの理解を助けられたことになります。

描き手に必要な準備、観察力、介入力

この「相互理解の促進」のために、描き手は、講演内容と聴衆の属性や期待を、事前にできるだけ把握しておく必要があるでしょう。

聴衆の多くが熟年男性か親子連れかでは、わかりやすい描き方が異なることは想像に難くありません。

加えて講演者と聴衆が「〝いま、この瞬間〟どのような気持ちで話をしたり聞いたりしているか」に、常に敏感になっている必要もあります。

講演者が興奮気味にまくし立てていると感じたとき、聴衆が乗ってきているのならばその勢いで描き記すことが大切だし、聴衆が置いてけぼりのようであれば講演者がクールダウンするようはたらきかけるべきかを検討する必要が出てきます。

会場の工夫

「相互理解の促進」を目的に話を描き記すためには、描き手の記す文字やイラストが講演者と聴衆に、常によく見えていなければなりません。

もし聴衆が50人を超えるようであれば、描き手のキャンバスにカメラを向け、会場の大スクリーンにリアルタイムで映しましょう。
描き手は、記す内容に気を向けるよう講演者と聴衆の両者に伝えるとさらにいいでしょう。

昔流行ったワールドカフェ1という手法では「相互理解の促進」を目的とした工夫がありました。
テーブルに模造紙が敷かれ、そのテーブルを囲む参加者は、手元に話し合いを〝いたずら書き(doodling)〟すること、その〝いたずら書き〟を同じテーブルを囲む他の参加者と積極的につなげ合うことが推奨されます。
誰かが話す内容を、全員が手元に〝いたずら書き〟し、それを各人が見て「この人は今の話をこんな風に〝いたずら書き〟したのはどうして?」「私はこんな風に今の話を受けとったよ。」とたずねこたえあうことで相互理解が促されました。

表現者はその場の全員だ

講演会においても、専任の描き手を設けず聴衆ひとりひとりが手元に、講演内容をメモったり〝いたずら書き〟したりしてもらい、それを見せ合いながら話し合う時間をつくることができれば、講演内容の理解が深まると同時に、聴衆同士の相互理解も深まってとても意義あることだと思うのですが、研修や訓練の場以外であまりそういう空間にはお目にかかったことがありません。

合意形成、議論の整理、図解、構造化とも呼ばれる

会議の文脈では、「合意形成」や「議論の整理」、あるいは「図解」や「構造化」のために話を描き記す効用が語られますが、突き詰めれば、この「相互理解の促進」をやろうとすることと同じです。互いの論理やナラティブを受容し合い、同時に「相手に受容されていること」が実感としてやはり互いに受容し合えている状況が、飛び交う議論の整理の目的であり、このような状況——つまり相互理解が一定あること——が合意を形成するためです。  (次回記事へ続く)

注)この記事は、(株)ピースオブケイクのWEBサービス「note」で2016年12月14日に公開した記事を、加筆修正したものです。

記:ワークショップ設計所 小寺
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付録

  1. ワールドカフェ:Juanita Brown(アニータ・ブラウン)氏とDavid Isaacs(デイビッド・アイザックス)氏によって、1995年に開発・提唱されたワークショッププログラムの1つ。エチケットを守りながら、カフェのような雰囲気の中、話し合えるダイアログ(対話)の手法。ホールシステムアプローチの1つで、「学習する組織」をつくり維持する際や対話型組織開発でもよく使われる。また、ダイアログ(対話)については読みもの「場の発散技法: 『ダイアログ』」で詳しく述べた。